君を愛す ただ君を……
時間通り?

あたしは首を傾げながら、玄関のほうに視線を動かした

彩香さんが玄関のカギを開けて見えたものは、5カ月前に制服を雑巾代わりにして玄関を拭いていた男の姿だった

「今日はこれを買ってきました。鉄分がとれる飴です。一つ、ためしに舐めてみたんですけど…鉄棒を舐めているみたいでした。けど、妊婦さんは貧血になりやすいって書いてあったんで…どうかな?って思って。よかったらどうぞ」

「ありがと。あがっていく? あなたの買ってくれた紅茶、ちょうどいれたところなの」

あたしはテーブルの上にあるマグカップに視線を動かした

紅い液体から、白い湯気がゆらゆらとのぼっていく

確か、ノンカフェインの紅茶って言ってたよね

あの子が、妊婦である彩香さんに気を使って買ってきてくれたの?

「あ…でも、僕は届け来ただけなので」

「いいじゃない。たまには」

「い、いえ。駄目です。では失礼します」

ペコっと頭をさげた男の子は、走っていってしまった

彩香さんはドアを閉めると、紙袋を手に持って戻ってきた

「産休に入ってから、毎日この時間に必ず来るのよ。産休に入る前は、郵便受けに必ずメモを添えて届けてくれてたの。すぐに飽きて、届けるのを止めるだろうって思ってたけど。まだ続いてる。すごい忍耐力よね」

彩香さんが紙袋をテーブルの上に置くと、ソファに座った

「あの子だけよ。大樹の死んだ罪の重さに、向き合ってるの。お兄さんが犯した罪なのに、家族の一員だってだけで…しかも、血がつながってないんですって。再婚したお母さんの連れ子だったみたいで。なんかこっちが、悪い気がしちゃう」

彩香さんがマグカップを手にすると、紅茶を飲んだ

「大輔も…どこで何やってるんだか」

「あ…頑張ってるよ! 大輔君も」

「いいのよ。気を使わないで」

あたしは首を左右に振ると、彩香さんの手を握った

「ほんとに、頑張ってるよ。姉貴には内緒にしててって言われてたんだけど、今ね…ウチにいるの」

「はあ? あの馬鹿、陽菜ちゃんにまで迷惑をかけてるの?」
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