君を愛す ただ君を……
あたしが自宅に戻ると、大輔君がエプロンをつけてキッチンに立っていた

「あ、おかえりなさい! 陽菜さん、今夜は餃子です。中身は、越智さんの大嫌いな椎茸入りです」

大輔君が、にやっと楽しそうに笑った

あたしは革製のソファに座ると、薄手のコートを脱いだ

テーブルの上には、大輔君の勉強道具が出してある

勉強の途中で、切り上げて夕食作りをしてくれたんだ

「椎茸、食べてくれるかなあ?」

大輔君がキッチンで餃子の皮を包みながら、首を傾げた

「これが、高3の教科書なんだぁ。あたしにはさっぱりだなあ」

あたしは数学の教科書をぺらぺらとめくりながら、呟いた

高校2年の冬で退学しちゃったから、高3の勉強は丸々やってない

数字の羅列や見たことも読み方もさっぱりわからないマークを目にして、ため息をはいた

今更ながらだけど、高校生活を3年間、しっかり送って大学に通っていたら、どんな生活になっていたのかな?…なんて思う

手術したことに後悔はしてないし、して良かったと思ってる

あたしが普通の身体で、高校生活を3年丸々過ごせるなら、どんな高校生活になっていたのかな?って想像したくなる

越智君ともっと早くに付き合ってたのかな?

「陽菜さん、高校の成績は良かったって、越智さんが言ってましたよ?」

「それは高校2年までの成績でしょ? あたし、2年の冬で退学しちゃったから」

「それなら、越智さんだって2年の冬にはドイツに行ってて……あれ?」

大輔君が首を横にたおした

「お二人ってぇ…去年の春に会って、付き合い始めたんっすよね? あ…でも越智さんが陽菜さんの高校の成績を知ってるなら、もっと前から知り合いだったんすか? え? あれ?」

大輔君の頭上にはたくさんのクエスチョンマークが飛んでいた

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