君を愛す ただ君を……
「愁一郎とは同じ高校だったよ。交際を反対されて、あたしは学校を退学して、愁一郎がドイツに留学したの」

「うわあ…すげえ。そういうのって、ドラマの中だけだと思ってたっす」

「愁一郎は、お金持ちのお坊ちゃまだから」

「ああ……金持っている家って、いろいろ面倒っすよね。俺の家もそうだけど…何人も『お母さん』って呼ぶ人がいるって、結構面倒くさいっすよ。義理の母で、やっと呼びなれたっつうか、見なれたっつうか…そういう頃には、もう俺の母じゃないっすからねえ」

大輔君が、ニカッと白い歯を見せて笑った

うーん、話している論点がずれているような気がするけど…まあ、お金のある家って、いろいろな事情が絡み合ってて、大変な気持ちは納得できるなあ

結婚式の招待客にも、気を使ってる愁一郎を見てて、大変だなあって客観的に思っちゃった

あたしは、ただ友人と職場の先輩や後輩を呼ぶだけで平気だけど…愁一郎はそうはいかないみたいで

愁一郎のお父さんと招待客で、揉めたりしてたもんね

あとは…お母さんを呼ぶかどうかでも、お父さんと揉めてたね

愁一郎は、妹もお母さんも呼ぶ気はないって断言してたけど……

お父さんは逆だった

せっかくの息子の晴れ姿なんだから、見せるべきだって

式場に来る来ないは別として、結婚する旨くらいは伝えるべきだって言ってた

愁一郎は、いまだにお母さんには連絡してないみたいだけど

言うだけは…言ったほうがいいかな?ってあたしも思う

まあ、きっと良い顔はされないんだろうなあって感じるけどね

「そういえば……大輔君って、佐々木慎也君って子、知ってる? 同じ高校の子だと思うんだけど」

「佐々木慎也?」

大輔君が首を傾げた

「えっと、京介君の弟らしいんだけど」

「ああ…佐々木じゃないっすよ、もうっ。えっと、宮野慎也です。親が離婚して、もともと母親のほうの連れ子だったから、母親の旧姓に戻ったっすよね。短距離の選手で、天才児とか言われてて……でも、もう…陸上は辞めたみたいっす」

大輔君が、悲しい顔になった

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