君を愛す ただ君を……
「…って、俺のせいっすかね? あいつ、岡崎先生を慕ってたっすから」

大輔君が、首の後ろをポリポリと掻いた

「あ…いや、ごめんね。違うの。その…大輔君を追い詰めるつもりじゃなくて。慎也君って子がね…彩香さんの家に毎日同じ時間に、プレゼントを持って行ってるから…どんな子なのかな?って」

「あいつが?」

「お兄さんの犯した罪を、かわりに毎日、謝罪してるみたいだったから」

「兄貴…ねえ。義理兄弟で、しかも生まれ月がちょっと早いってだけで、兄貴って呼ばなくちゃで…あいつ、可哀想だった。学校は違うけど同学年の兄、性格も正反対で……慎也はいつも苛められてた。あいつ、喧嘩めっちゃ強いのに、絶対に反撃はしないんだ。強いのに、兄貴には逆らわないんだぜ…おかしいだろ? 最初はびびってんのかと思ってた。でも、他校の女子があいつの兄貴の子分たちに襲われたのを見たときは、強い拳を振り上げてた」

大輔君の目が、穏やかになる

尊敬の念が混じった視線を、餃子の皮にそそぎながら、手を止めて微笑んでいた

きっと、慎也君の素顔を大輔君は知っているんだね

大輔君は慎也君を認めてて、尊敬もしているんだと思う

「俺、聞いたんだ。そんなに強いのに、どうして理不尽なことばかって言って苛めてくる兄貴に逆らわないんだよって。そしたらさ…あいつ、『拳を凶器にしていいのは、女性を守るときだけ。それ以外に奮う拳は、ただの暴力でしかない』って。それを聞いて、ああ、俺、何やってんだろうって思ってさ。不良グループを抜けたいって思うきっかけになったんだ」

大輔君が、シャツの袖をまくると、涙のたまった目じりを袖で拭いた

腕には、去年のクリスマスの日付が刻まれたタトゥーがあった

あたしはソファを立ち上がると、大輔君の腕を見つめた

「それって…」

「ああ…忘れないようにと思って。俺の罪だから…忘れちゃいけないんだ。目に見える位置にあれば、絶対に忘れない」

大輔君が、ぎこちない笑顔を見せた

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