君を愛す ただ君を……
「ただいま」

玄関の明かりがつくと、愁一郎の声がした

スリッパの床を滑る音が、近づいてくると、スーツ姿の愁一郎が目に入った

「おかえりなさい」

あたしは、愁一郎から鞄を貰ってから微笑んだ

愁一郎も嬉しそうに笑ってくれる

「…なんか、椎茸のにおいがする」

鼻をひくっと反応させた愁一郎が、じろっとキッチンに立っている大輔君に向いた

「椎茸、買っただろ」

「越智さんの料理には入れてないですよ」

大輔君が苦笑すると、肩を持ち上げる

え? 餃子に入れるって言ってたのにぃ

「今夜の食事に椎茸が入ってたら…家から追い出すっ」

愁一郎が、大輔君を指でさしてから、廊下を引き返して寝室に入って行った

「大輔君、平気? 内緒にしてて」

「バレませんよ。先週にロールキャベツのときに入れましたけど、『おいしい』ってパクパク食べてましたし」

あ……入ってたんだあ

あたしは、先週の夕食を思い出すと頬をひくひくと痙攣させた

あたしも気づかずに、食べたよ

大輔君ってすごい

医者になるより、レストランのシェフになったほうがいい気がする

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