君を愛す ただ君を……
あたしは愁一郎の鞄を持って、寝室に入ると、スーツを脱いだ愁一郎にキスの洗礼を受けた

「陽菜、まだ先の話なんだけど。俺、来年の春にドイツに行こうと思うんだ。ドイツで世話になった教授から、連絡があって。来年、心臓外科の研究室の席が一つ空くらしいんだ。そこで研究してみないかって誘われた。滅多にないチャンスだから、俺……。もちろん陽菜も一緒に来てほしい」

「うん、いいよ。ついて行く」

「良かった」

愁一郎が安心したようにほっと息をつくと、肩の力を抜いた

「あたし、ドイツ語の勉強しないと…」

「英語で通じるよ?」

「じゃあ、英語も勉強しないと…」

「どっかのスクールに通う?」

「うん。通いたい」

「んじゃ、大輔が浪人しないようにビシバシと勉強させないとな」

愁一郎が、楽しそうににやりと笑う

愁一郎、心臓外科の勉強ができるんだね

その研究を生かして、お父さんの病院を引き継げるといいね

心臓の疾患で苦しんでいる人たちが、一人でも多く笑顔に変わってほしい

お金に苦しまず、治療できる世の中になるといいなあ

「陽菜は、今日…軽部先生の家に行って来たんだよな? 元気だった?」

「うん。母子ともに元気だったよ」

「そっか」

愁一郎が部屋着に着替え終わると、洋服ダンスの扉を閉めた

「あたしもいつかは……」

「いらないよ」

「でも…」

「何度も言っただろ。俺は子供はいらない。望んでない。陽菜がいれば、それでいいんだ」

愁一郎があたしを抱きしめると、首筋にキスを落とした

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