君を愛す ただ君を……
「あたしなら、平気だよ」

「いらない」

愁一郎が、首を振ってあたしから離れた

「あたしは愁一郎の子が欲しいよ。産みたい」

「俺は、いらない。もうこの話は止そう。陽菜と喧嘩したくない。俺は、陽菜が何と言うと考えを変えるつもりはないよ」

「愁一郎は見たくないの? 自分の血を受け継いだ子供を…」

愁一郎の瞳が、あたしからそれた

ぷいっと横を見た愁一郎が「ふう」っと息を吐き出して、手を腰にあてた

「見たくない」

間をおいて、愁一郎が答えた

「嘘。ほんとうは見たいんでしょ?」

「俺は…今ある命と未来の命との二つを天秤にかけたくないだけだ。陽菜の腹の中に、新しい命が宿ったとする」

愁一郎はベッドに座って、立っているあたしのお腹を指でさした

「妊娠も出産も身体に負担をかける。もしものことがあったとする。陽菜か赤ちゃんか…どちらかを選ばなくてはいけなくなったとき、俺は迷わず陽菜を選ぶ。だけど、陽菜は違うだろ? 絶対に、自分の命より子供の命を優先にする。そんなふうにして、生まれてきた子に、俺が愛情を捧げられると思うか? 俺には、陽菜を失ってまで欲しい命なんてないんだ。それが俺と陽菜の血を受け継いだ子だろうと、俺は愛せない」

愁一郎の目に涙がじわっと浮かんだ

「愛せないなんて…愁一郎なら、自分の子を愛せる」

「陽菜はわかってない。俺が愛しているのは陽菜だ。陽菜の血を受け継いで子は、陽菜じゃないだろ」

愁一郎、そこまで考えてくれてるのは嬉しいけど

やっぱりあたしは愁一郎の子供が欲しいよ

だって、あたしが絶対に死んじゃうとは限らないんだよ?

ただ身体に負担がかかるから、危ないかもってだけで、可能性はある

「もう…止そう。俺は、絶対に子作りをしない。それだけだ」

愁一郎が立ち上がると、あたしの背中を優しく撫でた

あたしは…欲しいよ

愁一郎の子が、欲しい
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