君を愛す ただ君を……
「待ってるよ。宿題でもやってれば、すぐでしょ?」

しぃちゃんの言葉に、越智君が返事をせずにあたしに視線を送ってきた

「岡崎に怒られるぞ?」

越智君が早くしろと言わんばかりに、手招きをした

「あ…ちょ、コートを…」

あたしはロッカーの中から紺色のコートを手に取ると、袖を通しながら歩き出した

「『岡崎先生』だろ。越智愁一郎!」

大ちゃんが越智君の肩に腕をかけてきた

「部活の顧問が、こんなところに居ていいんですか?」

越智君が、ちらっと大ちゃんを横目で確認をしてから、白々しく口にする

「わざわざ期待の新人を迎えに来てあげたんだ。喜べ。筋肉痛で帰られたら困るし」

「大ちゃん!」

あたしの声に、大ちゃんがパッと両手をあげた

「まだ何もしてないよ」

「でも何かしようと思ってたんでしょ?」

「まあ、ちょっと」

大ちゃんが苦笑した

「あの…私も陸上部の…」

「ごめんね。マネはもういらないんだ」

大ちゃんが、しぃちゃんの言葉を最後まで言わずに断ってしまった

「陽菜、わざわざジャージに着替えなくていいんだぞ。制服のままで、そのほうがすぐに帰れるだろ」

大ちゃんがあたしの肩を抱いて、廊下を歩き始めた

「しぃ、気をつけて帰れよ」

あたしの背後で、越智君の声が聞こえた

しぃちゃん、部活が終わるまで待ってるって言ったのに

どうして、越智君は帰るって前提で話をしているの?
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