君を愛す ただ君を……
「しかし越智先生っ、無事に産める確率は……」

「20%をきってるって言いたいのはわかります。低い確率で、俺も医師の立場であれば絶対に止めています。諦めてもらうよう説得もするでしょう」

愁一郎が言葉を止めると、一歩前に歩み出て、あたしの肩に手を置いた

「出産に関して、全て陽菜の気持ちに任せようって決めているんです。陽菜が選んだ道を信じようと」

愁一郎…知ってて、昨日、産んでいいって言ってくれたの?

すごく辛かったんじゃないの?

だから親に電話したのか……

確率が低いってわかってても、お父さんに電話して確認せずにはいられなかった

そっか…愁一郎の不安って、わからない未来に恐れていたわけじゃなくて

無事に産める確率の低さに、恐怖を感じてたんだ

あたし…どうしたらいいのだろう

「…ごめんなさい。少し考えてもいいですか?」

「ええ。一週間以内、答えを頂戴」

あたしは椅子から立ち上がると、産科の先生にお辞儀をした

診察室を出たあたしは、愁一郎の横顔を見た

「知ってたんだ。ちゃんと産める確率が低いって」

「前々からそう言ってただろ?」

そうだけど……そうじゃなくて…

「ずっと反対してたのに。妊娠してるってわかってから、どうして怒らないの? どうして出産に反対しないの?」

廊下を歩きながら、あたしは愁一郎の大きな背中に問いかけた

「妊娠って、陽菜だけの責任じゃないだろ? 俺にも原因があるわけだし。ごめん。負担のかかる結果にはしたくなかった。それが俺の本音。だけど宿った命を邪険に扱うつもりもないんだ。確かに妊娠する前は、いろいろと言ってたけど……もし妊娠したときは、陽菜の想いを尊重しようってずっと心に決めてたから」

「愁一郎」

あたしの目頭が熱くなる

「産みたいなら、産んでいいよ。どの道を選ぼうとも、俺は陽菜の選んだ道に賛成するから」

愁一郎って、どうしてそんなに寛容でいられるの?

愁一郎って強いよ

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