君を愛す ただ君を……
なかなか落ちてこない腕にあたしはゆっくりと瞼を持ち上げた

愁一郎がスリッパのまま、あたしの前に出て、お母さんの手首を掴んでいた

「愁一郎、手を離しなさい」

「嫌だ。なんでここの住所を知ってるんだよ。俺はあんたに住所を教えてない」

愁一郎が、憎しみのこもった声で口を開いた

お母さんがニヤリと口元を緩めると、愁一郎に掴まれていない手で、髪を掻きあげた

「お父さんから聞いたのよ。泥棒猫との結婚が決まったって言うから、一言文句を言ってやろうと思って」

「帰れ」

「嫌よ。大金を手にしておいて愁一郎まで騙すなんて許せない」

「俺は騙されてない」

「騙されてるの!」

「あんたが何と言おうと俺は結婚をする。高校のときみたいに、離れるなんてしない」

愁一郎のお母さんが、共同廊下に響き渡るくらいの高笑いをした

あたしは愁一郎の後ろで、下を向いた

あたしはお母さんとの約束を破っている

だから怖くて、目を合わせられなかった
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