君を愛す ただ君を……
「愁一郎、貴方は越智の家の長男だってわかっているの? あの病院の跡取りなの。元気な子を産む女と結婚しなくてどうするの? 跡取りを産めないような女を妻にして、どうするのよ」

あたしは自分のお腹に手をあてた

「あんたが越智の家を気にするなんてな。こっちが笑いたいくらいだ。越智の家を出て行ったあんたが、後継者を気にする必要なんてないだろ。あんたは、俺を人形したいだけだ。思うように動く人形が欲しいんだよ」

「愁一郎、何もわかってないのね」

「何もわかってないのはあんたのほうだ」

二人が睨みあっているのが、見なくてもわかった

ピリピリとした空気が、玄関を包んでいる

愁一郎って、昔からお母さんを嫌がってたけど……高校のときよりも憎しみが増しているような気がする

あたしが知らない7年間の間に、何があったのだろう

「なら、あの病院の後継を諦めなさい」

「はあ?」

お母さんの唐突な言葉に、愁一郎の声が裏返った

「諦めなさいと言ったの。跡取りを産めない女と一緒になるなら、越智の人間でいる必要はないのよ」

「越智の家を出て行ったあんたが、口出しする問題じゃねえだろ?」

「なら、これからお父さんのところに行きましょう。きちんと話をするべきよ」

愁一郎がお母さんの手首をから手を離すと、首の後ろを掻いた

「今から?」

愁一郎は、すごく嫌そうな声をあげる

「ママぁ…まだ? 私、お腹が張ってきちゃったんだけど」

愁一郎のお母さんの後ろから、金髪の女性が顔を見せながら、じろっとこっちを睨んできた

愁一郎の視線が、お母さんのうしろにいる女性にいき、少し膨らんでいるお腹を見て、頷いた

「はっ…そういうことかよ」

全てを納得した愁一郎が、前髪を掻きあげると、呆れた顔をした
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