君を愛す ただ君を……
「越智さんのお母さんって強烈っすね」

ダイニングから、大輔君の声が聞こえてきた

あたしは、唇をかみしめると、ぎゅっと服の裾を握りしめた

そんな…だって、愁一郎は心臓外科の研究ができるって、ドイツ行きを楽しみにしていたのに

あたしの出産とかぶるからって、諦めてしまうなんて、申し訳ないよ

「陽菜? パーティの続きをしよう」

愁一郎が、振り返るとあたしに声をかけてくれる

あたしは顔をあげると、愁一郎の背中を見つめた

「そんな顔をするなって。俺、別にドイツに行けなくても後悔しないよ?」

「でも…ドイツに行くの楽しみだったんじゃない?」

「今は、陽菜が子供を産んでくれるほうが楽しみだから」

愁一郎がにっこりと笑う

本当に?

あたし、愁一郎の足かせになってない?

「陽菜、おいで」

愁一郎が、あたしのところまで戻ってくると手を繋いで引っ張った

ダイニングンの椅子に、あたしを座らせると、愁一郎があたしの隣に座った

「じゃあ、続きを始めよう。ほら、陽菜も明るい顔をして!」

愁一郎が、あたしにワイングラスを傾けた

あたしはほうじ茶の入っているコップで、乾杯をする

なんでこんな時期に、あたしは妊娠をしてしまったのだろう

もう少し早ければ…、もう少し遅ければ…

きっとドイツ行きの切符を手放すことにはならなかったのに

それに…愁一郎の実家の病院も……諦めずに済んだかもしれないのに



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