君を愛す ただ君を……
あたしは愁一郎に視線を送っていると、一瞬だけ目があった

お願い…思い出して

あたしの顔を見たら、思い出すかな?なんて淡い期待をもって見つめていた

でも愁一郎は、何事もなかったように視線を動かして、患者のカルテが置いてある棚の前に歩いていってしまった

あたしは、「はあ」と息を吐いて肩を落とした

思い出してもらえなかったみたい

目が合った時は、すごく緊張した

1秒くらいしか目が合ってなかったのに、30分くらい見つめてたみたいな…そんな気がした

本当に、あたしを忘れているみたい

「ねえ…一般の人がナースステーションに入ってていいの?」

愁一郎が近くに看護師に質問している声が聞こえた

「え?」

何もしらない看護師が、驚いた声をあげた

レイちゃんが、小走りで愁一郎に駆け寄ると、腕を掴んだ

「越智先生、彼女は涼宮 陽菜。ここの看護主任で、越智先生が5日後に結婚する女性です」

小声で、説明するレイちゃんに、愁一郎の顔の表情が固まった

視線があたしに向く

手に持っていたカルテを、愁一郎は元の位置に戻すと、あたしに近づいてきた

あたしの心臓は、バクバクと激しく鳴りだした

愁一郎の冷たい目がじろっとあたしを睨むように見つめた

「俺……あんたに騙されたんだってな」

「え?」

愁一郎らしからぬ言葉に、あたしは開いた口が閉まらなかった

「お袋がそう言ってた。危うくあんたに騙されて、俺は結婚するところだったって」

「…なに、それ」

あたしは愁一郎の白衣の中にあるネクタイに視線を落とした

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