君を愛す ただ君を……
「ファイルくらい自分でしまえ!」

レイちゃんがいなくなった越智先生に向かって、小さな声で怒鳴った

「珍しいねえ。越智先生が、看護師に話かけるなんて」

あたしは崩れかけたカルテを手に持つと、首を傾げた

「海東の仕草に、ヤキモチを焼いたとか?」

「ええ? まさか…あたし、越智先生に嫌われてるのに?」

「嫌い嫌いも、好きのうちってね。記憶が無くても、好きな気持ちとか惹かれる想いとか…そういうのってあるんじゃない?」

レイちゃんが、ニヤニヤと頬を緩ませた

「新しい恋人がいるのに……。あたしに期待を持たせないでよぉ。一人で生きていくんだから」

「一生?」

「んー…まあ、良い人がいれば…ねえ」

レイちゃんがカルテを半分、持ってくれると一緒に歩きはじめる

「早くその良い人を見つけなって!」

「出会いがないし」

「よしっ! コンパだ、コンパ」

「メンツは?」

「……看護師仲間からチョイス」

「それじゃあ、ただの飲み会じゃない」

「そうとも言うけど…じゃあ、患者は? えっと405号室の…筒井さんだっけ? なかなか格好良いと思うけど」

レイちゃんが首を捻りながら、提案をする

「患者さんねえ。きっかけがあればね」

あたしが笑うと、レイちゃんが下くちびるを突き出した

「きっかけをこっちで作らなくちゃ!」

「無理だよ…だってあたし、越智先生以外と恋愛したことがないもの。どうやったらいいかなんて…わからないよ」

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