君を愛す ただ君を……
すぐに玄関の扉が開く

私服の越智先生が、ドアを開けてくれた

見たことのある服

『愁一郎』の服でもある

つい『愁一郎』と越智先生が重なりそうになり、あたしは慌てて頭を振った

違う

この人はあたしが好きな人とは別人だ

そっくりだけど…よく似ているけど、あたしの好きな『愁一郎』とは心が違う

「鍵、持ってるなら、それで入れって言っただろ」

ぼそっと越智先生がぼやきながら、スリッパを玄関に出してくれた

あたしがいつも使っていたピンクのスリッパを置くと、どんどんと部屋の奥に入っていく

「お…お邪魔します」

小さな声で挨拶をしてから、あたしはスリッパに足を通した

ゆっくりと居間に進む

居間とダイニング、キッチンはすっかりと模様替えされていた

愁一郎が前のマンションから持ってきていた家具は一つも見当たらない

どれもこのマンションのスペースにあった大きくて、高そうな家具に変更されていた

「随分と変わっちまっただろ。こっちはお袋が全部、変えちまったんだ」

それでもテレビの脇に置いてあるコルク板の写真立ては変わらずに置いてあった

でも貼ってある内容が少し変わっている

入院生活中のあたしの写真が、表に出ていてた

多くの写真の中に埋もれつつあったあたしの写真が、前面に出ているのだ

あたしは写真の前に立つと、それをじっと見つめた

「よくわかんねえけど……その写真のあんたを見ると、心が落ち着くんだ」

そう言いながら、越智先生がキッチンに立った

7年ぶりに再会して、『愁一郎』の家に初めてお邪魔したときの映像と重なった

あたしが写真を見て、『愁一郎』がキッチンで温かい飲み物をいれてくれた

それが1年と少し前の出来事なんだね

もう…何年も前のことのように感じる

越智先生は『よくわかんねえけど』と『たぶん』と口癖のように連呼する

記憶がなくて、確信が持てないから口癖のように何回も言ってしまうのだろうけど

なんか…違和感がある
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