君を愛す ただ君を……
「わかんねえって言ってるだろ。俺だって、わけがわかんねえんだよ。この苛々の意味が何なのか。あんたの写真を見ると、心の奥が温かくなった気がして…あんたが残していった私物を見ると、無性に寂しくなった気がする。夜、ベッドに横になると枕が二つ並んでて、そこからあんたの香りがする。最初はその匂いに安心して眠りに落ちる。だけど夜中に目が覚めて、冷たいベッドに誰も横にいない風景に、ひどく心が凍えるんだ」

越智先生が前髪をかきあげると、あたしから視線をそらした

「もうそんな生活が3週間も続いてる。あんたが傍に居たら、どうなるんだろうって思うだろ。考えるだろ」

「越智先生には新しい恋人がいるじゃない」

越智先生は息を吐き出すと、ソファに座って長い足を組んだ

「よくわかんねえけど…あの人は違う。俺の求めてる人じゃない」

「どうしてそう思うんですか?」

「わかんねえよ。ただあの人に触れられても、何も感じないんだ。触れたいとも思わない」

それは…あたしには触れたいと思うっていうことなのだろうか

あたしは床に座ると、越智先生のマグカップの横にあるあたしのマグカップをずずっと引き寄せた

「こっち…来いよ」

越智先生が、寂しそうにソファを叩いた

「隣に座れよ」

口調は命令口調なのに哀願するような目に、吸い込まれ、思わずあたしは頷いていた

マグカップを元の位置に戻すと、テーブルの周りを半周して越智先生の隣に座った

微妙な距離が開いたソファの真ん中の空間を埋めるように、あたしは自分の鞄を置いた

その鞄を越智先生が奪うように掴むと、床に鞄が移動した

微妙に開いてる空間を越智先生が、あたしに近づくことで埋めた

越智先生の身体が触れている左半身が、敏感に反応して、びりびりと電気が走っている

「あ…あの…」

あたしは喉がひどく渇いているのに、お茶を飲む行為さえできずに身体が固まってしまう

あたしの肩に、越智先生の頭が寄りかかった

あたしの肩はまるで石になったかのように、かちこちに固まった

「お…越智先生?」

「あんたが一番安心する。今夜は帰るなよ」

越智先生の手が、あたしの手をぎゅっと握りしめた
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