君を愛す ただ君を……
路肩に越智先生の車が停まっている

あたしが店から出た時点で、携帯の着信が切れた

あたしは鞄の取っ手をぎゅっと握りしめながら、越智先生の車に近づいていく

運転席のドアが開くと、越智先生が車から降りてきた

携帯を手に持って、あたしの顔を見た越智先生の表情に安堵が広がっていくのが遠くからでもわかった

一歩一歩、あたしに近づいてきた越智先生が、あたしの前で足を止めるとぎゅっと抱き寄せた

「良かった。俺に会いたくなくて、帰ったんじゃないかって……ちょっと焦った」

越智先生? ううん、なんか話し方が『愁一郎』っぽいよ

「俺にチャンスをくれないか? 記憶がなくて、陽菜の知ってる『愁一郎』とは違うのはわかる。写真やアルバムを見て、思い出そうとしたけど…無理だった。携帯のメールを読み返したけど…思い出せないんだ。でも昨日、陽菜と一緒に時間を過ごしてわかった。俺、陽菜が欲しい。俺の身体は陽菜を求めてる」

肩を抱く越智先生の手に力が入った

「ごめんな。記憶がないからって、俺…お袋の言葉を信じて、陽菜を傷つけた」

あたしは勢いよく首を横に振った

勝手に涙が零れて、頬を濡らす

しゃくりあげる声を聞いて、越智先生があたしの背中を撫でてくれた

「泣くなよ」

「越智先生…『愁一郎』みたいです」

「同一人物だろ」

あたしは越智先生の身体に抱きつくと、声をあげて泣いてしまった

ずっと会いたかった『愁一郎』に出会えた気がした
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