君を愛す ただ君を……
「教えて。俺、知りたい。記憶がないから、陽菜から聞かないと…俺の過去がわからないんだ」

愁一郎が微笑むと、あたしの肩を抱き寄せた

写真を棚の上に戻した愁一郎が、スタンドのライトを消した

「あたし、心臓に疾患があったの。胸の傷は、高校2年のときの手術痕で…。その頃、愁一郎と付き合おうっていう雰囲気になったんだけどね。愁一郎のお母さんに交際を反対されてて……」

「俺たち、別れたのか?」

「手術代が無かったの」

「は?」

愁一郎が不思議そうな声をあげた

「お母さんから、愁一郎との手切れ金として手術代を貰ったの。それを知った愁一郎が、一度家出したんだけど……あたしと愁一郎で話し合って、愁一郎は家に戻ったんだ。だけどすぐにドイツに留学して…」

「あ、それは覚えてる。なんでドイツに留学したのか…までは覚えてないけど、留学してたのは覚えてる。それから日本の医大に編入して、その付属の医大に就職をしたんだ」

「そこで、あたしと愁一郎が7年ぶりに再会したの。それからだよ。きちんと付き合い始めたの」

「俺ら、再会してまだ1年ちょいだったんだ」

「そうだよ。だけど凄く幸せな1年だった」

悲しい出来事もあったけど、愁一郎と一緒に過ごしてきた1年は他のどの1年よりも充実してて、幸せを感じたよ

「お母さんにまた反対されちゃうね」

愁一郎が寂しそうな顔をすると、あたしの額にキスをした

「反対されてもいいよ。俺、陽菜と一緒にいる。だから俺から離れないで」

あたしは頷くと、愁一郎の手をぎゅっと握りしめた

「ありがと。その言葉、すごく嬉しい」

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