君を愛す ただ君を……
「愁一郎、記憶が……」

「全部じゃないよ。記憶を失った前後のことを思い出したんだ。陽菜、ごめん。辛かっただろ?」

愁一郎が身体を起こすと、あたしを抱きしめてくれる

「愁一郎」

あたしは愁一郎の背中に抱きつくと、彼の温もりに目頭が熱くなった

「俺、明日…実家に行く。陽菜も一緒に来てくれる? お袋も椎名さんも呼んで、きちんと話をする。俺は、誰に何を言われようと陽菜と離れるつもりはないし、離れるくらいなら、全てを捨ててもいいと思ってる」

「でも…あたし…」

「離れる気でいただろ? ついさっきまで」

「え? なんでわかっ……」

あたしは慌てて、口を押さえた

愁一郎は「やっぱりね」という顔をして、微笑んだ

いつもの愁一郎の笑顔だ

「陽菜はいつもそうだ。俺がいくら離れる気はないって言っても、陽菜は一人で静かに離れていくんだ。俺のためを思うなら、どこに行くな。俺の隣に居てくれ」

「あたし、愁一郎の足かせになってない?」

「なってない」

「嘘よ。だって、あたし、愁一郎の夢をどんどんと壊してる」

「壊してない。俺の夢は、陽菜と一緒になることだ」

「ドイツは? 病院は?」

「ドイツに行くのも、病院を継ぐのも…どうだっていいんだ」

愁一郎があたしの頭を撫でた

「陽菜と離れて……遠くにいる陽菜を想いながら、努力するのはもう嫌なんだ。お互いを想い合ってるのに、一緒になれない苦痛を与えられるのはもう二度とごめんだよ」

愁一郎が、あたしの唇にキスをした

「一緒に生きるんだ。俺と陽菜と……お腹の子供の三人で」

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