君を愛す ただ君を……
たとえ、何もなくても
今日は仕事が終わると、愁一郎と一緒に仕事場を後にした

これから愁一郎の実家に向かう予定だ

お父さんもお母さんも、愁一郎の記憶が戻りつつあるのを知らない

しかも実家に、あたしが行くことも知らないみたい

ただ愁一郎が話があるから、実家に来てと伝えてあるみたい

みちるさんも、愁一郎が呼んだと言ってた

「ねえ…やっぱりあたし、居ないほうが…」

車の運転席に座って運転をしている愁一郎に、あたしは声をかけた

愁一郎は口を緩めると、前を見つめたまま表情を崩した

「陽菜がいなくちゃ、話が進まないだろ」

「そうかな? あたしが居るのは、邪魔な気がして…」

「なんで?」

「きっとお母さん、みちるさんとの縁談を進めるよ?」

「それを断りに行くのに、進めさせてどうするんだよ」

あたしは窓の外の風景を眺めた

本当にこれで良かったのかな?

「また変なことを考えてるだろ? ったく、一人でウジウジと考えるなって。俺は陽菜と一緒に居たいって言っただろ?」

「そうだけど」

「じゃあ、俺が椎名さんと結婚したほうがいいのか?」

「嫌だ」

くすっと、愁一郎が笑う

「そうやって即答するくせに、なんで悩むのか……俺にはよくわかんないなぁ」

「愁一郎が人間として優秀すぎるからでしょ」

「なんだ、そりゃ?」

愁一郎が、肩を持ち上げて口を下にさげた

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