君を愛す ただ君を……
「しゅ…愁一郎?」

お母さんが尻もちをついたまま、信じられないと言わんばかりの表情を愁一郎を見てきた

「騙されてるのよ。愁一郎は…私に手をあげるような子じゃなかった。そうよ…何でも聞き分けがよくて…私の言うことを…」

「いつの話をしてるんだよ。俺はもう小学生じゃねえんだよ。何も知らないガキじゃない。あんたの世界の中で、にこにこと笑ってる子供じゃないんだ」

「愁一郎は私の子よ。私の言うことが聞けないなんて…そんなはずは…」

「言うことを聞かない大人になったからって、俺を階段から突き落としていい理由にはならないだろ」

「愁……記憶が……」

お母さんの顔がみるみる青くなっていくのが、手にとるようにわかった

「だから触るなと言った。あんたが近寄るだけで、階段から落ちていく恐怖が蘇る。あんたの顔を見ると、学生の頃の辛い気持ちが蘇る。あんたの過剰なまでの期待と希望が、成績の結果に注がれてた苦痛をあんたは知らないだろ。勉強で、俺の自由を縛ってにこにこと満足そうに笑ってるあんたを見てて、俺がまだあんたを母親だと思ってるとでも?」

愁一郎の言葉に棘があった

憎んでる

お母さんを愁一郎はひどく憎んでる

「愁一郎…私は貴方の母よ」

「戸籍上はな。それだけだ。俺の親は父親だけで、十分だよ」

愁一郎が、お母さんから視線を外した

「さあ、陽菜…親父んとこに行こう」

愁一郎があたしの肩を抱き寄せた

「あの…おばさま」

みちるさんが、愁一郎のお母さんに駆け寄った

あたしと愁一郎は、玄関に向かって歩き始める

芝生の上で、二人が寄り添うにこそこそと話をしているのが、わかったけど何を話しているのかまではわからなかった

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