君を愛す ただ君を……
家の中に入ると、玄関に愁一郎のお父さんが苦笑していた

「あれでも昔は可愛い女だったんだ」

「昔だろ」

愁一郎の返事にお父さんは肩を竦めると、家の奥に入っていく

かわりに若々しい女性が、エプロン姿で出迎えてくれた

お父さんの新しい奥さんだ

あたしより15歳も年上だけど、笑顔が凄く可愛い人だった

「ん? アキ、なんか焦げ臭いぞ?」

居間のほうから、お父さんの低い声が聞こえてきた

「あっ! グリルに魚、入れっぱなしだった」

ぱっと目を大きく開けたアキさんが、パタパタとスリッパを鳴らしてキッチンに駆け込んでいく

玄関に残されたあたしと愁一郎は、顔を見合わせるとくすっと笑い合った

「アキさんが来てから…いつ、来ても騒がしい家だよな」

愁一郎がぼそっと呟きながら、靴を脱いだ

呆れながらも、少し嬉しそうに微笑んでいた

『キャー、もう…せっかくお料理を頑張ろうって思ってたのにぃ』

キッチンからアキさんの叫び声が聞こえてくる

『出前にしろ。これじゃあ……食えないだろ』

お父さんの呆れかえった声も聞こえてきた

『だってぇ……また嫌味を言われるじゃない。「貴方はいつまでたってもお料理が下手なのね。越智の家の人間を騙して、家にあがり込んでおいて。主人を早死にさせたいのかしら?」って。だから…』

アキさんの悲しそうな声を聞いて、あたしはお手伝いしようと足を一歩前に踏み出した

『ああー、もうっ。出前よ、出前! 舌を唸らせる寿司でも頼んでやる』

「え?」

あたしはアキさんの切り替えの速さに、びっくりした

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