君を愛す ただ君を……

「アキ、うまいなあ」

お父さんが、尊敬のまなざしを送る

愁一郎のお母さんが、詰まらなそうに喉を鳴らすと、冷やかな視線を送った

「愁一郎…どういうこと？」

お母さんがテーブルを叩くと、ぎろっとあたしを睨んだ

「陽菜が妊娠してるって言っただろ。子育てはやっぱ日本がいいからな」

「ああ、わかるわかる！　日本人は日本語が通じるところで生活するべき」

アキさんが、愁一郎の肩をバシバシと叩きながら、最後の中トロを箸で掴んだ

「あっ！」

愁一郎が、大きな声をあげてアキさんを睨んだ

「最後の中トロはぁ～…じゃじゃぁん、陽菜ちゃんのお口にイン！」

アキさんが、そう言いながらあたしの口にお寿司を入れてくれた

「全くさあ…夫になろうとしている男が妻の食事量を気にしなさいよ！　男の実家に帰るってだけで緊張すんのよ。一人でパカパカと食べてる場合じゃないのよ」

「何だよ、それ！　一人でパカパカ食ってたのは、アキさんのほうじゃん」

「何？　聞こえなーい」

アキさんが両耳を押さえて、聞こえないふりをした

「んだよ…都合の悪いことは聞かねえのかよ」

愁一郎が、頬を膨らませると不満そうに呟いた

突然、勢いよく居間のドアが開かれた

ドアの蝶番が壊れてしまうのではないかと思うくらい、大きな音をたてて開いたドアの向こうに大きなお腹をしている愁一郎の妹さんが立っていた

「ママ！　これ、どういうこと？」

妹さんが怖い顔をして、あたしたちを見てから、最後に愁一郎を睨みつけた