君を愛す ただ君を……
越智先生が、ふっと笑うと私の頭をポンポンと優しく叩いた

「アキちゃん、一生懸命、働いて貯めたお金なんでしょ? 自分のために使いなよ」

「銀行強盗したお金だから要らない」

私はぷいっと越智先生から視線を逸らすと、鞄を持たずに歩き出した

「ちょ…ちょっと! アキちゃん」

重たい鞄を持たないと、こんなに身体が軽いのか

私は大股で目的もなく歩いた

どこに行くあてもない

だって、私は天涯孤独だから

手術代と入院費を、払うっていう目標をもって、今まで生きてきた

お金を払い終わった今、私は何をして生きていこう

「そうだ…京都に行こう!」

あたしはどこかで見たCMのマネをして、手を叩いた

「い…行かないで! アキちゃん、待ってよ。重たいんだからっ」

大きな鞄を2つも持っている越智先生が、「ぜえはあ、ぜえはあ」と息をきらしながら、私の肩に手を置いてきた

「なんでここにいるんですか?」

「あ、あのねえ。アキちゃんが、これを置いていくからでしょ」

額から汗を流している越智先生が、身体を2つに折って呼吸を整えていた

「だからそれは……」

「いらないって言ってるのにぃ。とりあえず、ちょっと休ませて。僕、若くないんだから」

私は周りを見渡した

どこか休めそうなところがあれば、いいんだけど……

「あそこで休もう」

越智先生が、指をさした建物を見て、私は顔を真っ赤にした

「ええ?」

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