君を愛す ただ君を……
「ごめん。待たせて」

越智君が駆け足で階段を下りてきた

あたしは首を横に振ると、立ち上がった

越智君と帰れるのは、嬉しい

でも、しぃちゃんを裏切っているみたいで心が痛いよ

「さあ、帰ろうか」

越智君が、あたしの鞄をすっと手に取った

いつもしぃちゃんの鞄を持つみたいに、今はあたしの鞄が越智君の手の中にあった

羨ましいと思っていた行為を、今、越智君があたしにしてくれている

胸が熱くなった

どうしよう…嬉しくて、涙が出そう

じわっと目頭が熱くなるのを感じた

「あ、鞄…自分で持つよ」

あたしは越智君の手を見つめながら、口を開いた

「初めての部活、疲れただろ? 俺が持つよ」

「でも…越智君だって」

「俺は中学からずっと陸上をやってたから。全然疲れてない」

越智君が肩を竦めて、笑みを見せた

「…っていうとちょっと語弊があるかな? ちょっと疲れたけど、疲労困憊じゃないから」

下駄箱から、革靴を出すと、あたしたちは校舎の外に出た

もしかしたら大ちゃんが、いるかもしれないと頭の隅で思うと、あたしはキョロキョロと周りを見渡した

「どうしたの?」

「あ…大ちゃんがいるかもって…」

「いないよ。練習熱心な部員につかまってたから」

「そうなの?」

「ああ。岡崎大樹って言ったら、高校の短距離走の記録を残した人物だからね。きっとあの人を憧れている生徒は多いはずだよ。そんな憧れの先生が、顧問になったんだから…そう簡単には帰さないよ」

そうなんだ

大ちゃんって、すごい人だったんだ

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