君を愛す ただ君を……
「先生って、本当に不器用なんですね…」

私の言葉に、先生は困ったような表情で微笑んだ

ドス、ドス、ドスという階段を上る足音がすると、がちゃっと寝室のドアが開いた

私はてっきり愁一郎君が、寝具で何か足りないものを取りに来たのだと思い、立ち上がりながら振り返ると、勢いよく何かが身体にかけられた

「アキちゃんっ!」

先生の驚いた声が背後で聞こえた

「こんのぉ…泥棒猫っ」

私は顔についたものを手で拭ってから、目を開いた

目の前には、先生の奥さんが鬼のような形相をして立っていた

次に私は全身にかけられた物を確認した

「泥?」

水を多く含んだ泥が、私の全身と先生のベッドにかかっていた

あ……せっかく寝床を用意したのに

これじゃあ、また新しくしないと…

洗濯が大変だぁ

「『アキちゃん』? ちゃん付け? 気持ち悪いっ。息子が帰省してても、夜はお盛んなのねえ」

先生の奥さんがバケツを投げて、私の顔面にヒットさせた

い、痛いっ

「愁一郎が夏休みでこっちに戻ってくるから、君も夕食をどうだい?って誘っておいて」

「君は断ったじゃないか。僕の顔を見たくないって」

先生と奥さんが一歩ずつ前に出すのを見て、私は声がでる限り大きな叫び声をあげた

「な…なによ?」

奥さんがじろっと私が睨んだ

「汚れます。先生も、奥さんも…ここ、泥だらけ! 話すなら別の部屋で」

思わず踏みそうになった泥に、先生がぱっと足をあげる

「アキちゃん、お風呂に入っておいで」

「はあ?」

奥さんがじろっと先生を睨んだ

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