君を愛す ただ君を……
『アキちゃん、週末に旅行に行こうよ。前に言ってた露天風呂付の宿に予約を入れておくね』

私は顔を緩ませながら、アパートの鍵を手の中でくるくると回しながら、夜道を歩いた

嬉しいな

先生と旅行できるなんて

しかもコソコソしなくていいんだ

先生は独身になったし、お互いの気持ちを知ってる

もしかしたら、旅行で先生と一線を越えられるかもしれない

先生とはキスはするけど、それ以上のことはしてない

先生と想いを確認してから、3カ月が過ぎているのに

季節は夏から秋へと移り変わったけど、私たちの関係は移り変わっていない

それでも、先生と過ごす毎日は楽しくて幸せだ

手術代と治療費を稼ぐために、ただ働き、囲われていたときに比べたら、はるかに色のついた世界になった

先生は、私にいろいろな想いをくれる

それはブランド物の鞄や靴に比べられないほど、素晴らしいものだ

私は先生に手術してもらって良かった

「アキ」

夜道から聞こえてくる低い声に、私の足がぴたっと止まった

ゆっくりと声がしたほうに顔を動かした

電柱の陰に隠れるように立っている若い男が、私を見ていた

「な…なんで」

どうしてここがわかったのだろうか?

私は、男の姿を視界に入れるなり、全力で走りだした

「アキっ!」

ここなら、アパートに走って帰るより、先生の家に引き返したほうが早い

そう思った私は、形振り構わず走った

途中で靴が脱げる

肩にかけていた鞄を落ちそうになり、抱えこんで走った

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