君を愛す ただ君を……
先生からは何も聞いてこなかった

たぶん、私から言いだすのを待っていてくれているんだと思う

先生は、客間に布団を用意してくれると、部屋まで一緒に来てくれた

障子の前で、先生が足を止めると「じゃ、おやすみ」と小さく呟いた

私は慌てて先生のパジャマの裾を掴んだ

「待ってください。あの…」

「アキちゃん、無理しなくていいんだよ」

「私、さっきの男から逃げるようにこの町に来ました。自分が稼いだお金だけを持って、あとは全部捨てて……」

先生が私の肩をぎゅっと抱き寄せると、額にキスをした

「新しくなりたくて」

あの男が怖かった

振りあげる拳

威力のある蹴り

絶対に他人が見える場所には、傷をつけないずる賢さ

外面がよく、内面の汚い男だった

外見の良さと、外面の良さに私は惚れた

何も知らず、あの男の女となった

妻のいない男で、将来を考えた付き合いした初めての人……だったのに、一緒に暮らし始めてすぐに裏切られた

あんな男は一緒にいられない

そう思って、飛び出した

逃げ出したはずだったのに、どうして私の前にいたのだろう

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