君を愛す ただ君を……
「あの……」

あたしは、桐沼さんの背中に向かって声をかけた

桐沼さんがゆっくりと振り返ると、切れ長の目をあたしに向けた

「桐沼さんって背が高いですけど…何かスポーツってやってますか?」

桐沼さんが視線を少し上にすると、「バスケを」と呟くように答えてくれた

「そうですか」と返事をしたあたしは、返却カートに視線を動かした

「永田さんは?」

「はい?」

桐沼さんの声にびっくりして、あたしは素早く顔を動かした

「部活とか…サークルとか」

「ああ…高校のときにテニスをちょっと」

興味もなくただママに言われて、テニス部に入っただけだから…全然上達もせずに万年、ベンチを温めてたけど

ママの中にあるセレブのイメージは、テニスができる…とピアノが弾ける…と、料理がうまいって感じだったから

部活でテニス、習い事でピアス、それからママと一緒に料理を作らされてた

あと英会話スクールで、英語とドイツ語を…とりあえず続けていたけど、興味なんてないから真剣に勉強する気にもなれなかった

ただやっていればママが満足してたから

ママを怒らせないために、やってた

ママは怖いから嫌い

お兄ちゃんはいつも、自由気ままに生きてた

中学は陸上をやって、高校も突然、陸上を再会して…

好きになった女性に心臓の疾患があって、医学に目覚めたのか…医者になるとか言っちゃって、高校も卒業する前にドイツに留学して

ズルイ

好き勝手に生きてて…ママだって何だかんだ文句を言いながら、結局、お兄ちゃんの自由にさせてる

なのに…あたしには自由がない

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