君を愛す ただ君を……
「あ…でもこの顔…お客様に似てますね」

抑揚のない声で、さらっと桐沼さんが言うと「1000円になります」とレジを打った

言葉を失ったみーちゃんが、「早く行こ」と会計を急かした

旦那は、桐沼さんに文句も言わずに会計を済ますと、小走りで店を出て行ったみたいだった

「行きましたよ」

桐沼さんが、あたしを見下ろして口を開いた

「あ…はい。すみませんでした。足…痛かったですか?」

「痛かったです」

「すみません」

「知り合いですか?」

「え?」

「さっきの人たち」

桐沼さんが出入り口の自動ドアのほうに視線を向けた

「あ…えっと、旦那です」

「……そうですか。すみません」

桐沼さんが、謝った

「え? 何で謝るんですか?」

「何となく…です」

「何となく」

あたしは、桐沼さんの言葉を繰り返しながら、立ち上がった

「いいんですか?」

「何がですか?」

「旦那さん…思い切り浮気してましたよ?」

「あっちが本気なのかも」

「はい?」

「あ…薔薇の香水」

あたしは、鼻をひくひくさせた

今朝、洗った旦那のシャツから香ってきた匂いを一緒だった
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