君を愛す ただ君を……
あたしはバイトを終えて、駅前のデパートで少し時間を潰してから、待ち合わせの場所に向かった

桐沼さんがすでに駅の改札口で待っていてくれた

バイトの時とは服装が違う

バイトが終わってから、一度、家に帰ってから着替えてきたのかな?

髪型も少し違う気がする

ワックスで少し艶のある髪を、不規則に逆立たせていた

あたしが近づいてくるのがわかったのか…桐沼さんは右足に重心をかけていたのを止めて、まっすぐに背筋を伸ばした

腕時計に目を落としてから、あたしに微笑んだ

「すみません。お待たせしてしまいましたか?」

あたしは携帯で時間を確認してから頭をさげた

「いえ…まだ約束の時間より5分も早いですから」

桐沼さんがもう一度時計に視線を落とした

「飲み屋は反対口なんです。サークルのヤツがバイトしてる店の個室を借りて……」

桐沼さんがそこまで言うと言葉を一旦止めて、あたしたちの前を通り過ぎようとした男の人に軽く手をあげた

ジーパンのポケットに手を突っ込んで歩いていた男の人が、桐沼さんの手に気がついて「よっ」と挨拶をした

「あれ? ライ、彼女連れかよぉ。ずりぃなあ」

桐沼さんは特に何も言わずに、通り過ぎる友人らしき人を見送った

「え? あれ? いいんですか?」

「何がですか?」

桐沼さんが不思議そうな顔をして、あたしの顔を見た

「…だって、ほら…ちゃんと説明しないと」

「説明…ですか?」

「バイト先の人で…サークルの飲み会に興味があるだけって」

桐沼さんは、あたしの言葉を聞いて微笑むと「面倒くさい」と口にした

え? 面倒くさいって…彼女じゃないのに、彼女って勘違いされたほうが面倒くさいんじゃないの?

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