君を愛す ただ君を……
あたしは桐沼さんに案内されて、駅前にある飲み屋に入った

店内に入るなり、カウンターの中で料理をしているお店のご主人が顔をあげた

「あ、ライちゃん! 皆、来てるよっ。2階のいつもんとこだから」

「…っす」

桐沼さんが軽く手をあげると、店の奥にある階段を向かった

「なんだ…彼女ヅレかぁ。ライちゃんもやっと春が来たか?」

「もうすぐ夏っすよ」

「そういう意味じゃねえって」

「知ってますよ」

桐沼さんとお店のご主人がニヤニヤと笑って見つめあった

まただ

桐沼さんはまた説明をせずに、会話を終了させてしまった

あたしはお店の人たちにペコっと頭をさげてから、桐沼さんの背中を追いかけた

「いいんですか? ちゃんと説明しなくて?」

桐沼さんは「うん」と頷くと、階段を一段飛ばしにあがっていった

「おっ、重役出勤者の最後の一人が来ましたぁ」

上にのぼりきるなり、階段のところに立っていた男性に大きな声で叫ばれた

あたしはびっくりして目を開けた

「おせーぞ、ライ!」
「もう好き勝手にやってるからなぁ」
「大会前の団結式にキャプテンが遅刻なんて有り得ねえっつうの!」

すでに酔いがまわってる男性たちが、畳の部屋から大きな声を出してくる

「バイトのある日に、無理やり飲み会を入れるからだろ」

桐沼さんが靴を脱ぎながら、言い訳のように集まってる人たちに口を開いた

桐沼さんの声のトーンが、一気に明るくなるのがわかった

桐沼さんって、キャプテンなんだ

あたしは桐沼さんに習って、靴を脱いでから畳の部屋にあがった

「マジかよ…彼女ヅレだよ」

「だから言ったじゃん! 駅で見たって」

駅ですれ違った男の人が、隣に座っている青いシャツの男性の肩を掴んで揺らした

< 363 / 507 >

この作品をシェア

pagetop