君を愛す ただ君を……
「なんで1年が持ってこないんだよっ」

2階に到着するなり、桐沼さんの声が畳の部屋に響く

青い顔をした1年生だと思われる男子が、慌てて桐沼さんに駆け寄るとビールのケースを受け取った

「す、すみません」

「凛が一人で運ぼうとしてたぞ」

「すみません」

ぺこぺこと桐沼さんに謝った男子が、階段を登り終えたばかりのあたしにも謝ってくる

「え? あ…いえ」

あたしは首を左右に振りながらも、手も一緒に振った

「力仕事は全部1年の仕事だから。やらなくていいよ」

靴を脱いで畳にあがると、桐沼さんが小さな声で教えてくれた

「ごめんなさい。佐久間さんに、ビールがないって下に言ってきてって言われので…」

「あ…そう。佐久間が、ね」

桐沼さんの目がちらっと横に動く

たぶん、佐久間さんを見たのだろう

「あれ? 桐沼さん、どうしてあたしの下の名前を知ってるんですか?」

さっき、『凛』って呼んでたよね?

「タイムカードにフルネームが書いてあるから」

「そっか」

「…で、俺の下の名前はわかる?」

「『莱斗』さん」

「凛だって俺の名前を知ってるじゃん」

桐沼さんが、あたしの背中を肘でぐいって突いてきた

「『桐沼』じゃなくて『莱斗』でいいよ。『さん』もつけなくていいから」

桐沼さんがニッと笑うと、上座に戻っていった
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