君を愛す ただ君を……
午後7時になったのを桐沼さんが腕時計で確認すると、「時間、平気?」と耳元で聞いてきてくれた

どうなんだろう? なんて心の中で思ってしまう

どうせ、旦那は夜遅く帰ってくるのは知っているし、…もしかしたら帰ってこないかもしれない

どうせ、『みーちゃん』家だもんね

エロビデオを惜しげもなく5本も借りていって…いったい何回チャレンジするつもり?

なんて突っ込みたくなるけど

旦那の帰宅時間が云々より、今はこの時間が楽しい

楽しい空間から一人抜けて、あの寂しいだけの家に帰る気にはなれそうになかった

だからといって、いつ帰ってくるかわからない旦那にドキマギしながら、ここにいるのもなんだか申し訳ない気がする

「飲み会って何時までなんですか?」

あたしは、ビールのグラスを持って戻ってきた桐沼さんに質問した

「あー、こいつらはきっと朝まで飲むよ。そのまま朝練に集合するんじゃないかな? うちの部室、シャワーもついてるから…家に帰るより直で大学に行ったほうが楽だし」

「あ…朝まで?」

あたしはびっくりして、目を大きく見開いた

「んで、コーチと監督に怒られるんだよな。それがいつものパターン」

佐山さんが会話に割って入ってくると、桐沼さんのグラスにビールを注いだ

「怒られるってわかってるのに、飲むんですか?」

「飲むよ。そりゃ、楽しいもん。厳しい練習を乗り越えるには、こうやって酒を飲んで、ぱあーっと騒がないとなあ」

佐山さんが両手をあげて、楽しそうに笑い、そのまま畳の上に寝転んだ

しかも「むにゃ」とか言いながら、目をつぶって眠っていた

「家に帰るヤツもいるよ。きちんと酒を抜いて、練習にきたヤツらは怒られない。佐山みたいに、飲んで酔い潰れて、練習に行くと怒られる」

桐沼さんが、佐山さんを呆れた表情を見やった

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