君を愛す ただ君を……
「ライは真面目だから、キリのいいところでさっさと帰っちゃうのよね」

佐久間さんが桐沼さんの隣に座るとにっこりとほほ笑んだ

「1年生のときからそうだったのよ。普通は、先輩に付き合って朝まで飲むのに」

「朝まで飲み屋にはいた…が、酒は飲まなかっただけだ」

「それでいつもコーチから、怒られずに済んでた。ズルい子よね」

佐久間さんが桐沼さんの肩に手を置いて髪をツンと引っ張った

あぁ、この人、桐沼さんが好きなんだ

だから…瓶ビールを持ってきてなんて、あたしに意地悪を言ったんだ

この人、ママと同じだ

愛してる人に、振り向いてもらえなくて一生懸命だ

この感じ……この二人の雰囲気は、振り向いてもらえないんじゃないと思う

一度は付き合ったけど、別れたって感じかなあ

「別にズルくない」

桐沼さんが、佐久間さんの髪を触っている手を払った

「あ、ちょ…悪い」

ポケットの中から、携帯を出した桐沼さんが液晶で相手を確認すると立ち上がった

「もしもし?」

桐沼さんが携帯に耳に当てながら、寝転んでいる佐山さんを跨いで階段のほうへと歩いて行った

「ねえ、ライといつから?」

「え?」

「付き合ってるんでしょ? 女に全然興味を示さないライが、女性を連れてくるなんて」

佐久間さんがむすっとした顔をした

あ……香水の匂い

甘い香りだ

あたしは鼻をひくひくさせて、香水の匂いを嗅いだ

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