君を愛す ただ君を……
「あの…」

店を出たあたしは、桐沼さんの横顔を見上げた

「なに?」

「いいんでしょうか?」

「何が?」

「サークルの人たちに、勘違いされますよ? きちんと説明したほうが…」

「勘違い…ね。させておけば?」

「え? 良くないですよ」

桐沼さんがにこっと微笑むと、膝を折ってあたしの身長に合わせると、キスをしてきた

ちゅっと軽く唇が触れると、桐沼さんの手があたしの手を握る

「これで、勘違いじゃなくなった」

「ちょ…あの、知ってると思いますが、あたしは……」

「結婚してるんでしょ? 旦那さんの顔もばっちり見たから覚えてるよ。幸せじゃない結婚生活に意味があるとは思えないよ。越智 凛さん」

「え? なんで…旧姓を…」

あたしの驚いた顔を見た桐沼さんが、満足そうに笑う

「凛さんの家の病院って、外科でしょ? 俺、何度もあそこに通ってる。専門は心臓外科だろうけど。バスケの試合で、頭をきったときとか。練習に骨を折ったときとか」

パパに夜食を届けたり、喧嘩してるであろうママの迎えに行ったり、病院には何度も足を運んでいる

そのときに、あたしを見かけたのだろうか

「見合いの話も病院の廊下でお母さんとしてたでしょ?」

「あ……」

「俺、聞いちゃったんだよね。入院中で。ちょうど俺の部屋の前でやるから……」

「あたしを知ってたんですか」

「知ってた。でも『永田』ってネームバッチを見たときは、自信がなくて、声がかけられなかったけどね」

桐沼さんがぎゅっと繋いでる手を強く握りしめてきた
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