君を愛す ただ君を……
「陽菜、さっきの子を振ったの?」

「え?」

あたしが振り返ると、ママが信じられないといった顔をしていた

「だって…告白されたときは越智君のこと知らなかったし」

「病院の跡取り息子で、あんな端正な良い顔をしている子を振るなんて勿体ない」

「知らなかったんだもん。ついさっき、通院している病院の息子さんだって知ったんだよ? それに越智君、彼女いるよ」

「片想い中だって言ってたわよ? きっと彼女とうまく行ってないのよ。あの子と付き合っちゃえば? …って、陽菜は大樹君がいいのかしら?」

「やめてよ。あたし…誰とも付き合わない」

あたしはママの横を通り過ぎると、家の中に入った

大ちゃんとも、越智君とも、あたしは付き合わない

だって二人とも、違うから

大ちゃんはあたしを好きじゃない

越智君には、しぃちゃんがいる

しぃちゃんを悲しませたくない

越智君は、あたしの想いを聞いちゃったから、同情しているだけよ

そう…しぃちゃんとクリスマスを過ごすためにバイトをしているんだから

ただ、あたしに同情しているだけ

カルテを見て、ちょっと驚いてるのよ

可哀想だなって思ってるだけ

だから、あたしは誰とも付き合わない

付き合って、すぐにあたしが死んだら……どうするのよ

あたしは自分の部屋に入ると、鞄を放り投げて身体を丸めて小さくなった

あたしが死んだら……?

死んだら、あたしはどうなるの?

ここに居れなくなる

心臓が止まるってどんな感じ?

天国ってあるの?

死の世界ってあるの?

あたしの意識は? 想いは? 感情は?

どこに行ってしまうの?

死にたくないよ

まだこの世界に…いたい
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