君を愛す ただ君を……
『わかった。見合いをするよ』

見合いっていうか…ほぼ、強制的な結婚をだろ

ああいうのを政略結婚っていうんだろうなあ

あんなんで、あの子は幸せになるのかよ

短い制服のスカートをぎゅっと掴んでいるその子は、鼻を少し赤らめていて今にも泣きそうな顔をしていた

対照的なのは、目の前に立っている母親だ

これ以上にないほどの笑顔で、結婚相手になるであろう男の長所を並べ立てていた

可哀想だな、あの子

きっと『嫌だ』って言えない子なんだ

言いたいのに、口には出せない

態度で、あんなに苦しそうにしているのに、どうして母親であるあの女性は気付いてやれないのだろうか

「俺には関係ない…か」

俺は松葉づえでベッドに戻った

棚に置いてある雑誌に目をやった

大学のメンバーが、俺が載っているからと持ってきたが…自分が映っているのを見てもなんの面白みもない

できれば、時間を忘れるほどの楽しいの小説でも持ってきてくれればいいのに

病院はツマラナイ

泣きそうで、悲しそうで…切なく苦しい表情だった、あの子を思い出すと、俺は窓を眺めた

瞼の裏に、焼きついた彼女の顔が、俺の胸を苦しくさせた

あの子は、これからもずっと我慢ばかりしていく生活を送るんだろうなあ

俺も我慢強いほうだけど…精神的な我慢はしないタイプだ

あの子は精神的な我慢ばかりをしている

ストレス…たまらないのかな?

突然、暴れたくなったりしないのかな?

俺だったら、完全に暴れるなあ

好きにさせろって、家じゅうのモノをひっくり返して、親に反抗するけど…あの子は絶対そんなことはしないんだろう
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