君を愛す ただ君を……
痛いのを思い出すと、どんどんと痛くなるもので…俺は湿布をはってホテル内を歩いた

大浴場にでも行こうかと頭を捻っていると、背後から肩を叩かれた

「ねえ、桐沼君!」

「は?」

俺は振り返ると、小原さんが浴衣姿で立っていた

「小原さん…ですよね?」

彼氏に置いて行かれたんですね…と言いそうになる口を止めると、小原さんから視線を逸らした

「さっき同じエレベータに乗ってたわよね?」

「はあ…多分」

俺は曖昧な言い方をした

「奇遇だね。こんなところでも会うなんて。もしかして運命?」

「…偶然でしょ」

明るく振る舞おうとする小原さんに俺は、冷たく言葉を返した

「ねえ、上のラウンジで一杯付き合わない? 奢るから」

「彼氏は?」

「帰ったわよ。奥さんに浮気がばれて、今頃、言い訳に必死なんじゃないの?」

「そう。彼氏、結婚してるんだ」

知ってるけど

凛の旦那だし…じゃあ、凛は旦那を二人きりで帰ったんだ

「勝手にね。本当に好きなのは君だけだ…って言っておきながら、奥さんにバレるなり、私の存在なんてすっかり忘れて帰ったわよ。メールすらこないんだから」

俺もそういう運命をたどるのかな?

小原さんみたいに…

「一杯だけですよ。俺、明日も試合があるんで」

「試合?」

「バスケの試合があるんです」

「ああ…だからジャージの子がうじゃうじゃしてたんだ」

小原さんが今、初めて理解したのか何度も頷いていた
< 463 / 507 >

この作品をシェア

pagetop