君を愛す ただ君を……
「どうして? 私が抱けって言ってるの」

小原さんの頭を俺は撫でた

「子供扱いしないでよ。私、桐沼君より年上よ」

「でしょうね」

小原さんが俺の腕を払った

「好きなのよ…圭が。どうしようもなく…忘れたいの。忘れさせてよ。圭はもう…私を見てない。ただの性欲処理なのよ。欲しいのは奥さん。きっとそうなんだ」

小原さんが枕に顔をつけて、泣きだした

ダブルベッドで独り、うつ伏せで泣いている

何も起きなければ、この人はずっと好きだった男とこのベッドで愛し合っていたんだろうに

男の裏切りを目にしなくて済んだのに

きっと奥さんよりも自分を愛してくれている

ただその想いを胸にして、今日まであの男をやってきたんだろうに

「俺は好きな人がいるから、小原さんを抱けない」

「真面目ぶっちゃって」

「小原さん、辛いときこそ独りでいるべきだ。誰かに頼ることを知ったら、たぶん抜け出せなくなる」

俺は小原さんの背中をポンポンと叩いた

「俺、戻るから」

「ねえ、好きな人とうまくいってるの?」

「どうかな?」

小原さんの圭次第じゃないの?

心の中で、俺は呟いた

もう凛に会えないかもしれないし…会えるかもしれない

それは凛次第だ

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