君を愛す ただ君を……
ねえ、どうしたらそんなに強く生きられるの?

信念をもって、それを貫けるの?

「もう少しで、走り終わるからさ。帰る用意して下駄箱で待っててよ。10分もあれば、終わるから」

越智君はあたしの頭を軽く叩くと、また校庭に戻って行った

小さくなっていく越智君の背中を見送っていると、背後に誰かが立つのを感じて振り返った

「若いっていいよな。誰かを好きっていう熱い感情だけで、突っ走れるんだから」

大ちゃんだった

足を広げて、腕を組んで越智君の背中を大ちゃんも見ていた

「『どんな努力も惜しまない』か。今だから言えるんだよ。今後の苦しみをあいつはわかってない」

大ちゃんの言葉に重みがあった

まるで経験したことのあるような言い方だ

「大ちゃんも、そういう経験をしたの?」

「まあ…それなりに生きてきたから。無駄な経験だけはある」

「大ちゃん?」

大ちゃんの目が赤くなると、潤んでいくのがわかった

もしかして泣くのを、堪えてる?

「3年前に亡くなった恋人のこと?」

大ちゃんの視線が、越智君からあたしに向いた

悲しい瞳で微笑むと、大ちゃんはズルっと鼻を啜った

「交通事故って言っただろ。すぐには死ななかったんだ。命は助かった…でもただ心臓が動いているだけ。生命維持装置がないと、すぐに死んでしまうような状態が3カ月続いたよ。もう回復する見込みはないって医師にも言われて、ただベッドに横になったままのあいつを3カ月間、見続けた。両親の意向で、あいつの誕生日の日に生命維持装置を外してもらった。すぐに心肺停止したよ。呆気ない最期だった。でもあの3ヶ月間は地獄ような毎日だったよ」

大ちゃんの頬に一筋の涙が流れ落ちた

「企業の就職を控えてたんだけどね。陸上の選手として行くはずだった…けど、心身ともにボロボロの僕は、良い成績なんか残せなくて、結局就職はできなかった。就職浪人を経て、教職につけた」

「どうして…」

あたしは頭で考えるよりも先に、口が勝手に動いていた

「どうして、大ちゃんは苦労を知っているのにまた…苦労の道に足を突っ込もうとしてるの?」

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