君を愛す ただ君を……
「親ってね。無駄だとわかっていても、無理だとわかっていても、やっぱり子供には期待してしまうものなんだよ。私も息子には、過度な期待と夢をかけてしまう。そのせいで、衝突をしてしまうこともあるけれど…何だかんだと言いながら、やっぱり子供の幸せが一番なんだよね」

越智先生が、にこっと笑った

それって昨日のこと?

「越智君の部活ですか?」

「え? ああ、言ってた?」

「いえ。頬が腫れていたので、質問したら…」

「そっか。まだ腫れがひいてないのか。ジャージで帰ってきたと思ったら、部活を始めた…なんて言うからね。つい、かあっと頭に血が上ってしまって」

越智先生が、恥ずかしそうに首の後ろを掻き始めた

「すみません。あたしが…言っちゃったんです。越智君が聞いてるとは思わなくて、従兄に、もう少し越智君と過ごす想い出が欲しいって。ほんとにごめんなさい」

あたしは深々と頭を下げた

先生がふっと笑みを見せると、あたしの肩に手を置いた

「涼宮さんが気にすることじゃないよ。私もきちんと話も聞かずに、怒ってしまったからいけなかったんだ。愁一郎が決めたことだから。私は愁一郎の気持ちをきちんと聞いたうえで、部活を続けることを了承した。ただ…」

先生は一旦、言葉を区切ると、寂しそうな顔をした

「親としての我儘を言うなら、涼宮さんにはきちんと治療を受けて、あの子の大学の進路が決まるまで、生きてて欲しいと思う」

「え?」

「好きな人の死というのは、すごく精神的にくるんだよね。だからあの子の大学受験を考えると……ね。あの子にはここを継いでもらいたい。君がいることで、愁一郎が医学の道に興味を持ち始めてる。それは私にとったらすごく嬉しい事実なんだ。でも、君が亡くなってしまったら、愁一郎はどうなるのだろうって考えると怖い」

先生が、苦笑した

「医師としても、愁一郎の父としても、ぜひ君は治療を受けてもらいたいんだ」

「…考えてみます」

あたしは先生のまっすぐな視線に耐えられずに、ぼそっと口が動いていた

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