君を愛す ただ君を……
越智君の怖いくらいのまっすぐで真剣な想いは、きっとお父さんの血を受け継いでいるのだろうって思った

あたしは笑顔を作ると、強く握りしめていた手を解した

「あたし、越智君とはかかわり合わないでくれって言われるのかな?って思ってました。越智君はきっと医学部に進学するから、勉強がきっと大変なはずです。だから、越智君の将来を考えるなら、傍には寄りつかないでくれって…」

越智先生が、『ぷっ』と噴き出すと、肩を揺らして笑い始めた

「君は突き放そうとしてるでしょ? 愁一郎から昨日、全部聞いたよ。私は愁一郎の父だよ? あの子がどんな性格で、どういう行動をとるか。自分の高校時代を思い出しながら、愁一郎の気持ちや考えが想像できる」

越智先生が肩を竦めて、苦笑いをした

「私がどれだけ強く言おうが、怒ろうが…愁一郎には何の意味も持たない。ただ親の小言として、あの子には処理される。あの子は芯が強すぎる。我が強いというのか…周りがなんと言おうが、あまり気にしないんだ。一度決めたら、それをつき通すが、それ以外には無頓着なんだよね。私もそうだったから」

越智先生が、回転椅子をくるっと動かすと、机と向き合った

机の上にあるパソコンに電源を入れた

「検査、予約を入れてもいいかな?」

「え?」

「それともご両親と話をしてからのほうがいい? 私から電話しておくつもりではあるんだけど…」

「予約、入れていきます」

あたしは、パソコンの画面に映っている越智先生の顔を見つめた

先生がほっと息をついたのがわかった

「良かった」

先生の言葉が、昨日の越智君が言った『良かった』という言葉とかぶった

同じような表情と声で、言われると思わずドキってなってしまう

先生が、医師としても、越智君の父としても良い人で良かったなあ

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