君を愛す ただ君を……
来週に予約を入れたあたしは、先生にお礼を言ってから、診察室を後にした

待合室に出ると、越智君は若い看護師四人に囲まれていた

ソファに座っている越智君を、20代前半の綺麗な人たちが立って囲んでいる

楽しそうに会話も弾み、越智君の笑い声も聞こえた

あたしは、越智君と看護師たちから離れた場所に行くと、一人でソファに座った

『こんなところに居るから、愁君が怪我したのかと思ったじゃない』

看護師の声が聞こえてきた

『違いますよ』

『あ、そうだ。今度、デートしない?』

『しませんよ。何ですか、唐突に…』

『ちょっと、抜け駆けはなしよぉ!』

『ええ? だって唐突に言わないと、ついうっかり「うん」って頷いてくれないじゃん』

『ついうっかり…でも「うん」って言いませんよ』

ケラケラと笑いあうのが、聞こえた

越智君って、こんな風に笑うんだね

あたしは、越智君の背中を見つめた

肩が小刻みを震えている

微笑む越智君は知ってるけど、声をたてて笑う越智君は見たことなかったなあ

しぃちゃんは知ってるのかな?

デートのときとか、声をたてて笑ってたのかな?

あたしは看護師の一人と目が合うと、キッと睨まれた

慌てて、視線を動かすとあたしは下を向く

どうして睨むの?

見ちゃ…いけなかったのかな?

あたし、変な顔をしてたのかな?

あたしは背中を丸めると、手に持っている鞄をぎゅっと抱き寄せた
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