君を愛す ただ君を……
昼休みの鐘が鳴って、5分もしなかったと思う

教室内に、越智君が足を踏み入れると、まっすぐにしぃちゃんの机に向かった

女子たちの視線が越智君に向き、『うわあ』とどよめきも起きる

『やっぱ本命は笹原さんなんだよ』という囁きもあたしの耳に入ってきた

あたしは、越智君としぃちゃんの二人を視界に入れながら、4時限目で使った教材を机の中にしまった

「しぃ、話がある」

「じゃあ、どっかでお昼でも食べながら…」

しぃちゃんの嬉しそうに緩む横顔が見えた

やっぱり、しぃちゃんは越智君が大好きなんだ

あの笑顔を見れば、一目瞭然だよ

「いや、ここで話をしよう。俺、しぃと付き合う前から好きなヤツがいるって言っただろ? やっぱ、俺、そいつのこと諦められないから。しぃとはもう付き合えない」

クラス中の注目を浴びるなか、越智君はさらっと口にした

しぃちゃんの顔から笑みが消え、ちらっと横目であたしを睨んだ

「何それ。陽菜とうまくいきそうだからって、私を捨てるの? 1年も付き合ってたのに」

「彼女がいないなら、付き合ってって言ったのはしぃだ」

「私のせいにするつもり?」

「俺にも責任があるのはわかってる。しぃには悪いことをしたと思ってる。だからって、今の関係をずるずる引き摺るつもりはもうないんだ」

しぃちゃんが、バンと机を叩くと立ちあがった

「片想いの人に振り向いてもらえたら、そりゃあ、私なんて用なしでしょうね! コソコソと付き合うのが嫌になったの?」

「違うだろ。俺たちはコソコソと付き合ってない。俺は、何度も涼宮に振られてる。それでも俺は、涼宮を諦められないんだ。だから、しぃと別れる」

越智君の言葉に、クラスの女子の悲鳴に近い感嘆の声が聞こえた

『すごいね。涼宮さんて、越智君を振ったの?』

あたしの前の席に座っていたクラスメートが、勢いよく振り返るとあたしに聞いてきた

「え?」

あたしは驚いた声をあげながら、しぃちゃんの顔を見た

しぃちゃんは顔を真っ赤にして、あたしを睨んでいる

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