君を愛す ただ君を……
越智君がベッドに軽く腰をかけて、あたしたちは手を繋いでいた

保健医はおらず、静かな保健室だった

窓からは、夕暮れのオレンジ色の光が差し込んでいた

越智君の顔がまた近づいてくると、キスをする

さっきから何度となく越智君がキスをしてくる

軽いキスから、深いキスをしては、「好きだよ」と小さい声で囁いていた

「越智君、もう検査結果は出ているの?」

「え?」

越智君の幸せそうな顔に影が灯った

あたしから視線をそらすと、すごく寂しそうな顔をして微笑んだ

「出てるよ」

「そっか。その顔じゃ、きっと結果は良くなかったのかなあ」

あたしは努めて明るい声を出して、口を開いた

「詳しくは親父に聞いてよ。俺もよくはわからないんだ。ただ、手術するならすぐにしないと…手遅れになる」

越智君の指に力が入り、あたしの手を強く握りしめてきた

「手遅れ?」

「治る見込みはあるよ。でも手術をしないと」

越智君の視線は保健室の床を見つめていた

「その手術の成功する確率は?」

越智君はふっと笑うと、首を横に振った

「親父を信じてよ」

越智君?

どうしてあたしの目を見てくれないの?

「親父なら…必ず成功するから」

越智君の声が、一段と小さくなって呟いた

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