君を愛す ただ君を……
「ありがとうございました」

あたしはママと一緒に、越智先生にお辞儀をしてから診察室を後にした

検査結果を聞き終え、入院手続きの書類をもらいや手術の説明を受けてきた

待合室のソファに座ると、ママがあたしの手を握ってきた

「手術が終わって、退院したら何がしたい?」

ママが明るい声で聞いてきた

「うーん。走ってみたい」

あたしの答えにママが、笑顔を見せた

「すぐは駄目よ! 傷口が開いちゃうわ」

「わかってるよ」

あたしは肩を揺らして笑った

あたしが手術を受けると、パパとママに報告した時、二人はすごく驚いていた

いつも後ろ向きで、何をやるにもまずは嫌な面ばかりをあげていたあたしだったから

検査結果を病院に聞きに行く前から、手術を受ける!…なんて言い出したあたしを見て、二人は喜んでくれた

前向きで、努力する心があれば必ず治るよってパパが優しく言ってくれたのが嬉しかった

「涼宮」

私服の越智君が、病院の待合室に入ってきた

ジーパンにタートルネックのセーターを着た越智君が近づいてくると、あたしの顔を見て笑顔を見せてくれた

「ああ、陽菜を前向きにしてくれたのはこの王子さまね」

ママが緩みきった笑みで、あたしのわき腹を肘で突いてきた

「ママ!」

越智君が、ママに軽く会釈をするとあたしの前で膝を折って、姿勢を低くした

あたしの手をぎゅっと握りしめると、温かくて柔らかい表情であたしの目を見つめてきた

「親父から、話を聞いた?」

「うん。今、ちょうど終わったところ」

「そっか」

越智君の黒髪が揺れた

「あら…嫌だわ。お父さんに電話してこなくちゃ」

ママが、喉を鳴らしながら立ちあがると、そそくさとあたしたちから離れていく

もしかして…気をきかせてくれたの?
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