DARK†WILDERNESS<嘆きの亡霊>


その向こう側からは、先ほどからうめくような男の声が途切れ途切れ漏れていた。

本当だったらもっとはっきりと聞こえるのだろうが。

普段は静かなこの小さな診療所は今、大勢の人間に取り囲まれている。

それらの人々が飛ばす野次や、何かを叩く音。騒ぎを落ち着かせようと駆けつけた憲兵がそれに対して叫ぶ怒声に周囲は埋め尽くされ……

薄い壁一枚の部屋数も少ない狭い空間にそれらの騒音を防ぐ術はなく、会話もやや大きな声でないと難しいような状況。

騒ぎの原因は、衝立の向こう側で傷口の治療の後処置を受けている男。

牧師が連れてきたのは、腕を大きく何かで切り裂かれたのか……肩口から溢れる血で衣服を染めた男。

男が着ていた衣服は草色の軍服。



敵国、ディラハンの兵士だった。





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