世界で一番好きなもの。【短】
『……お出掛け、しないの?』
飛び出した一言に目を見開くのは俺の番。
まさか、そんなことを言われると思ってなかった。
それは本当にめずらしいことなのだ。
付き合って数年、ほとんど家デート…
…デートって言うのかも微妙だけど…、そればっかりだった。
だけど、元々花梨も社交的なタイプじゃないから、不満なんて言われたこと無かった。
一緒に居られれば、それでよかった。
「…したいの?」
そう問う俺を見下ろすその顔は、ほんのり紅く染まっていてなんとも言えず可愛い。
そっとその顔に手を添えて撫でてやれば、花梨は遠慮がちに小さく頷いた。
…寒いの嫌い、なんだけどな。
でも、たしかに今日はクリスマスイブ。
そういえば、プレゼントはあげてたし、もらっていたけど、出掛けたことはなかった。
…女の子としては、ちゃんとデートをしたいに決まってる…か。
というか、そんな可愛いおねだりを断れるはずがないんだけど。
俺がそうこう考えているうちに、
『…ごめん。やっぱいいよ!彰、寒いの苦手だもんね!』
…何を勘違いしているのか、泣きそうな顔してるくせに笑って弁解する花梨。
馬鹿だね…。
行きたいくせに、俺のことばっか考えてる。
本当に馬鹿。
でも、そんな馬鹿なところも愛しい。
我が儘くらい、いくらでも言っていいのに。
「いいよ、行こう。」
そう言った俺がそんなに意外だったのか、花梨は驚いた顔をする。
その頬にそっと手を伸ばせば、花梨は俺の手に自身の手を重ねて、幸せそうに頷いた。