世界で一番好きなもの。【短】
早速支度をして、ふたりで部屋をでる。
当然だけど、12月の風は肌を刺すかのように冷たくて、俺は肩を竦めた。
花梨にもらったシックなボーダーのマフラーを口元まであげながら、俺はキュッと隣の小さな手を握り締める。
凍るような寒さの中、じんわり伝わってくる花梨の体温に、隠れた俺の唇は自然と綻んでいた。
夕暮れ時の空を背景に、俺達はポツポツ他愛もない話をしながら町の方を目指す。
のんびりした幸せな感覚を楽しんでいたけど、町に近づくにつれ人も増えてきて…
そして、思わず繁華街の入り口で立ち止まった。
「………。」
『わぁ〜…かわいいっ!』
その人の多さに思わず尻込みしたくなっている俺と、クリスマス一色に装飾された町に目を輝かせる花梨。
行くしかない、か…。
見てるだけで酔いそうな人混みにあまり気乗りはしないが、花梨のためだと思えば、それほど苦ではない。
「…行くんでしょ?」
だから俺は、いつの間にか不安気に俺の表情を窺っていた花梨にそう促す。
『…うんっ。』
すると花梨は俺の手を握り直し、照れたようにはにかむと再び歩き出した。
あっちを見たり、こっちを見たり…
忙しく動き回る花梨に、俺は苦笑しつつも大人しく従っていた。